Mag-log inしばらく歩くが、遠く山は見えるが近づいてる気がしない。足元の小石が、カツカツと音を立てる。
「なぁ〜どのくらい掛かるのぉ~?」
レイニーは、少しばかり疲れて問いかけた。
「ん〜とぉ……三時間くらいかなぁ〜」
エリゼの答えに、レイニーは思わず固まった。マジかぁ……すでに1時間は経過してるんですけど? 片道四時間で、討伐で二時間くらいかなぁ、で……10時間かぁ……ちょ、ちょっと待って……山に着いて帰ってくる感じじゃない?? ……山に着いて、帰ると夜中に帰宅なんですけど。レイニーの顔には、絶望の色が浮かんだ。
それと、剣も持ってないじゃん。準備不足に情報不足だなぁ……。レイニーは、自分の計画性のなさにため息をついた。
明日に変更するしかないか。城の王都の城門を、まだ抜けてすらいなかった。レイニーは、仕方なく引き返すことにした。街の警備兵の詰め所に立ち寄った。休憩と情報収集と剣を借りるつもりで寄ったのだ。
丁度、街の様子を確かめるのにも良いかなっと思ったりもしている。レイニーの頭の中では、新たな情報収集の計画が練られていた。
うわぁ……城門のほどほど近くの大きめの詰め所なだけあって、捕えられた者や兵士の出入りが激しく混雑をしていた。人々の話し声と足音が、ごちゃ混ぜになって耳に届く。
「お兄ちゃん、兵士の人の邪魔になっちゃうんじゃないかなぁ……」
エリゼが不安そうな表情をして、レイニーの服を掴み言ってきた。その小さな手は、レイニーの服をぎゅっと握りしめている。
そうだよなぁ……邪魔になるけど、用事があるし、手早く済ませて立ち去りたいんだけど。ん? でも、暇そうにしてる人いるじゃん。詰め所のカウンターの中で偉そうな人が事務作業員の女の子と楽しそうに話をして盛り上がっていた。ん……父親の改革って進んでるのか? レイニーは、その光景に疑問を抱いた。
「あのぉ〜ちょっと良い?」
レイニーは、カウンターの中の人に声を掛けた。その声は、少しばかり遠慮がちだ。
「……なんだ、ガキか。何のようだ? 見ての通り忙しいんだがな」
兵士の男が、悪党面の男を引っ張ってきていた。それのレイニーの格好は、動きやすいように冒険者の格好をしていた。兵士の男の言葉には、明らかに子供を軽んじる響きがあった。
「あ……だよねぇ〜。じゃあさ、あそこに暇そうな人いるじゃん。呼んできてよ」
レイニーは、わざとらしくため息をついて言った。
「は? あの方は、ここの詰め所の所長だぞ? 俺が怒られるっての! どうしてもって言うなら自分で呼ぶか、他のやつに頼んでくれ……俺はゴメンだ」
兵士の男は、顔を青ざめさせて言った。その声には、所長への恐れが滲んでいる。どんな人か聞こうかと思ったけど、見ての通りだと思う……。周りが忙しくしているのに、楽しくおしゃべりをしているようなヤツだし。レイニーは、呆れたように内心で呟いた。
はぁ……。声を掛けるか……面倒い。レイニーは、重い腰を上げた。
「なぁ〜そこの、偉そうなおっちゃん!! 話があるんだけどぉ〜っ!」
レイニーが大声で話し掛けると、兵士の動きが止まり、レイニーと所長を交互に見て静かになった。その場にいた全員の視線が、レイニーに集中する。エリゼは、レイニーの後ろに隠れた。その小さな体は、不安で震えているようだ。
偉そうなオッサンがムスッとした表情をすると、近くにいた兵士にボソッと命令を伝えると、レイニーの方へ来た。その足取りは、明らかに不機嫌さを表している。
「何のようだガキ……? 所長様はお忙しいんだ、くだらない用だったら捕らえるぞ」
所長のお付きもご機嫌斜めですかぁ〜? レイニーは、内心で皮肉った。
こんなところじゃ困った人が相談に来れないじゃん? 完全に犯罪者を捕らえるためだけの場所になってるのは問題でしょ……未然に防ぐものじゃないの? それに街の人と仲良くなって情報を集めたりしないとだと思うけどなぁ。レイニーは、前世の知識と経験から、この詰め所の問題点を的確に把握していた。
って、事で……所長さんを解任したいですなぁ〜♪ お父さまも改革を進めるって言ってたしぃ。レイニーの顔には、悪戯っぽい笑みが浮かんだ。
「そうそう……用があったからきたんだよね。忙しいようには見えないんだけど? 楽しく話をしているだけじゃないの? あれで給金を貰ってるって……ダメでしょ」
レイニーは、所長を真っ直ぐに見据えて言った。その声には、子供とは思えないほどの堂々とした響きがあった。
「は? 生意気なガキだな……そんな事を聞かれたら俺まで被害を被るじゃねぇかよ……」
所長のお付きの兵士は、顔を青ざめさせて言った。その声には、明らかに焦りが混じっている。
「あーそれは、大丈夫。これから偉そうな人は、普通の一般兵に降格するから♪ 副所長は、だれなの?」
「は、はい? 俺だけど……意味わからないことを言ってると捕まるぞ。さっさと用件を言ってもらおうか」
副所長は、信用できないという顔をしているが、対応は明らかに変わった。怒鳴り声から、普通に応対する姿勢になっていた。その声には、わずかな動揺が感じられる。
「大人しく殺されなさい……」 ダイモンが冷たく囁くように言うと、エリゼが抵抗し動いたからか頬から血がにじみ出てきた。その赤い雫は、レイニーの視界を真っ赤に染めた。 エリゼを傷つけられたという、怒りの感情が溢れ出し、レイニーはエリゼに改めて完全遮断の結界を張った。この結界はこの世界と切り離されているので周りで何が起きようが影響を受けない。だが、何が起きているのか見えず、聞こえず、閉じ込められた感じになってしまう。空間の中に外の風景を投影してストレス軽減をしておいた。レイニーの心には、エリゼへの深い愛情と、ダイモンへの激しい怒りが渦巻いていた。 エリゼの傷は回復魔法が効かないと言っていたので、レイニーのスキルのイメージで治療した。回復ではなく、イメージで元の状態を復元した感じで、治すのとは違う。エリゼの頬の傷は、みるみるうちに消えていった。 さて、コイツをどうしよう……? 大切な仲間のエリゼを傷付けた大罪人を。背負われていたあーちゃんが、いつの間にか擬態を解き、ディアブロの姿で現れていた。その漆黒の翼は、闇の中で静かに広がる。「主よ……どうか怒りをお沈め下さい」 現れたディアブロが怯えた様子で跪いてきた。その声は、震え、レイニーの放つ怒りのオーラに怯えているようだ。「なんでさ? 仲間を傷付けられて許せるわけ無いでしょ。なに? 同族が殺されるのが嫌なわけ?」 レイニーは、ムスッとした表情をしてディアブロに言った。俺の仲間が傷つけられて許せっていうの? それで、自分の同族はゆるせって? あり得ないしっ。レイニーの言葉には、ディアブロへの不満と、エリゼへの強い庇護欲が込められている。「あんなヤツは、どうでもいいですが……。その力で攻撃は……マズイです。辺りが滅びます」 ん!? あ、同族をかばう気はないらしい。『あんなヤツ』とか言ってるし。ディアブロの言葉に、レイニーは少し驚いた。「ん? ディアブロには関係ないことじゃないの? 不死なんだろ?」「
『気配を消すってことはさぁ、知能が高くて力もあるってことだよね? 普通の魔物じゃないってことかな……』『一応、気をつけてくださいね……でも、レイニー様なら大丈夫だと思いますけど!』 随分と、過剰評価をしてくれてるけど、俺はこの世界に来たばかりで……不安なんですけど。レイニーは、あーちゃんの言葉に内心でツッコミを入れた。♢悪魔子爵ダイモン 近辺の探索をすると、遺跡のような場所を発見した。そこには小さな祭壇があり、その祭壇には祀られているのか封印されているのかは不明な場所があったが、それが開けられていた。その光景は、レイニーの好奇心を刺激し、同時に不穏な予感ももたらした。 あぁ……ここで何かをしていたのか〜? うぅーん……気配の性質が魔物ではなく、遥かに知能が高い……。それに悪意を感じるという事はぁ〜……悪巧みをしてるってことかぁ〜。レイニーは、その場の状況を推測した。 気配を消してもバレバレなんだけどね、悪意に害意と殺意を感じるし。レイニーは、相手の意図を完全に読み取っていた。「あのさぁ〜ここで、なにをしてたのかな〜?」 レイニーは、殺意のある方へ声を掛けた。その声は、どこか挑発的だ。 祭壇の陰からディアブロとは違い、人型で角が生えていかにも悪魔という者が現れた。雰囲気とオーラの感じからしてディアブロの放つ悪魔のオーラをまとっていた。その姿は銀色の長髪が光を受けてキラキラと輝き、深紅の瞳が鋭い光を放つ。高級感あふれる黒と金の貴族衣装は、歩くたびに優雅に揺れ、豪華な装飾が一層彼の威厳を際立たせている。浅黒い肌には冷たい光が反射し、頭に生えた曲がった角が漆黒に光る。まさに高貴な悪魔の子爵といった風貌だ。その存在感は、見る者を圧倒する。 その悪魔が一瞬の沈黙を破り、低く冷ややかな声で話し始めた。「……全く、見て見ぬふりをしてその場を離れてくれればよかったのに&he
気を良くして洞窟の奥に足を進めていくと、数匹のゴブリンに遭遇した。前方に現れると横穴からも現れて完全に囲まれた。まあ、知ってたけど……。レイニーは、ゴブリンの存在を事前に察知していた。 ゴブリンもこん棒を手に持ち、襲い掛かってくる。まるで軍に入りたての少年兵の様な大振りで、隙だらけで簡単に避けられるし、倒せる。レイニーは、初めての剣術を使いゴブリンの首を斬り落とした。その剣は、正確にゴブリンの急所を捉えた。 エリゼが実戦を見て、血や首を切り落としたところを見て引いてると思いきや……「うん。今度は、キレイな剣術だったよ♪ さすが、お父さんが認めるだけあるねっ」 エリゼは、ニコニコの笑顔で誉められた。人型の魔物でも抵抗がなさそうだね? 俺は少し抵抗があるんだけどなぁ……。レイニーは、エリゼの順応性に驚きつつ、自身の内心の葛藤を感じていた。♢地下湖と古びた扉 さらに洞窟の奥に進むと、小さな地下湖が現れた。その水面は薄い霧がかかっており、松明の光が反射して幻想的な光景を作り出している。幻想的で不気味にも感じる光景で、息を呑む雰囲気だった。その美しさと不穏さが混在する空気は、レイニーの心を掴んだ。「わぁ……キレイだけど……不気味だね」 エリゼも同じ事を感じていたみたい。その声には、驚きと、わずかな恐れが混じっている。「うん。幻想的でキレイだけど、魔物が現れそうな感じがするね〜」 レイニーは、警戒しながら呟いた。 湖のほとりを見渡すと、冒険者たちが置き去りにした古びた装備や道具が見え、ここが多くの者にとっての休息の場でもあったことがうかがえるし、ここで襲われたとも考えられる。休憩をしているところを襲われ、荷物や装備品をそのままに逃げたのかもね……。その光景は、過去の出来事をレイニーに想像させた。「冒険者の装備品が、不気味に見えるね〜。周りに魔物の気配は無いけど、気を付けないとね」 レイニー
その岩の割れ方は、まるで誰かが強大な力で割ったようだった。こんなパワーを持つ人間を見たことも聞いたこともない。もし、そんな人間がいたら軍が見逃さずにスカウトしているだろうし。それか、冒険者の中にいるのかもしれない。レイニーは、その圧倒的な力に想像を巡らせた。「ここから入れそうだよ?」 エリゼがニコッと言ってきた。さすが、冒険者志望だね。しかも責任回避をして俺に行かせようとしているしぃー。俺なら何でも許されると思っているのか? 今のところは許されているけどさ〜♪ レイニーは、エリゼの行動に、面白さと、わずかな呆れを感じた。 まあ、こんな面白そうな所を見つけたら、誘われなくても行くでしょ。「一緒に行く?」 レイニーは、エリゼならついてくると分かってて笑顔で聞いた。「……うぅ……こんな所で、わたしを一人にするの?」 エリゼがレイニーの服をそっと掴み、不安そうに見つめてきた。その瞳には、心細さが滲んでいる。「エリゼなら大丈夫じゃない?」 レイニーは、エリゼの反応が可愛くて……ついついイジワルなことを言ってしまう。「いやぁ。大丈夫じゃなーい。一緒に行くぅー!」 可愛い頬を膨らませたエリゼが言ってきた。「だよねぇ〜」「うん♪」 二人で顔を見合わせて頷き、ニコッと笑った。このパーティでは、エリゼが止める役だったが、俺と一緒にいることで影響を受けてしまっていて、今では止める人がいないので危ないかもしれないな。レイニーは、今後のエリゼとの冒険に、若干の不安と、それでも期待を抱いた。♢洞窟の探索 洞窟に足を踏み入れると、まず湿った空気が肌にまとわりついてくる。冷たく湿った石の壁には、所々に苔が生え、ゆっくりと滴り落ちる水滴の音が洞窟内に響き渡る。洞窟内は薄暗く、アイテムボックスから取り出した松明の明かりがぼんやりと前方を照らす。壁に空いた亀裂や足元の不規則な石の配列が、ここが自然の力でできたものであることを物語っていた。その光景は、
軽食を摂り、少し元気が出たのでアイテムボックスから剣を取り出しエリゼにも渡した。実力は少年兵よりは高いから、少しは頼りになると思う。……お遊び程度の魔物しかでてこないと思うけど。この辺りの魔物の反応が、低級の魔物の反応しか無いし。これなら二人で楽しみながら山頂に向かえるかなっ。レイニーは、山の気配を探索し、状況を判断した。「さー、出発しよー♪」「はぁいっ!」 エリゼは、元気いっぱいに返事をした。 小さい魔物が現れると、二人で顔を見合わせてニヤッと笑った。「どうする? エリゼも戦いたいんじゃない?」「わたしに倒せるかなぁ〜?」 エリゼはそう言うけど、顔が笑ってるじゃん。しかも剣を構えてるし……。レイニーは、エリゼの興奮を感じ取った。「どーぞー♪」「……う、うん。えいっ!」 エリゼは、シュパッ!と剣を振り下ろし、一撃で魔物を討伐できた。その剣筋は、見事なほどに鋭い。「わぁーい! 倒せた! ねえ、見た?見た?」 エリゼは嬉しそうに振り返り、満面の笑顔で聞いてきた。昨日の森とは雰囲気が違い、不気味な雰囲気もないし。その瞳は、達成感に輝いている。「うん。余裕そうだね〜!」 というか、さすがセリオスの娘で剣の扱いが慣れていて剣がぶれていないし、剣のスピードが早い。レイニーは、エリゼの才能に舌を巻いた。「まぐれだよー」 エリゼは謙遜してるけど、日々の訓練の成果だと思う。これだと、俺の出番が無くても良いのかもなぁ〜接待の魔物の討伐だなぁ。日頃の感謝の気持を込めて、エリゼに付き合おう♪ レイニーは、エリゼの成長を喜び、温かい気持ちになった。「次は、お兄ちゃんね!」「俺は、帰りで良いよ〜。二人で疲れちゃったら、強敵が出た時に困るでしょ〜」 エリゼが楽しそうだったので、今は遠慮しておこうかな。レイニーは、エリゼに花を持たせることにした。「あぁ〜そっかぁ。わかった! 行きは、わたしが頑
「はいっ! もちろんですっ♪ おとーさまっ」 レイニーは、そう言いながら国王に駆け寄り、抱きついた。それで、甘えておこうっと♪ 国王の服の感触が、幼い体に心地よい。「うむ。だが、キケンなことはするでないぞ!」 抱きつかれて、苦しそうな声を上げる国王の声が鳴り響いた。その声には、レイニーへの愛情と、それでも厳しさを教えようとする親心が感じられる。「はぁーい!」 レイニーは元気に返事をして、しばらく甘え続けて部屋に戻った。♢山への道のり ……翌日。 早朝から用意をしておいた馬車に乗り込み、エリゼと馬車で山へ向かった。 ちゃんとした送迎用の馬車で、王国の紋入りではなく普通の一般的な送迎用の馬車だ。一般人は……馬車には乗らないけどね。「わぁ! ちゃんとした馬車なんて初めて!」 エリゼが窓の外を眺めて、嬉しそうに声を上げた。前回乗ったのは兵士を護送するタイプの馬車だったしね。その瞳は、新しい体験に輝いている。「あはは……たぶん……10分もすれば具合が悪くなると思うよ……。この直に来る振動に揺れがキツイんだよね」 レイニーは、経験からくる予感を語った。「えぇ〜楽しいじゃん♪」 エリゼが、左右の窓に行ったり来たりして楽しそうに過ごしていた。その無邪気な姿に、レイニーは頬を緩めた。 …………。 ………………「あ、あぅ……」とエリゼが声を上げた。馬車が道に転がっている石に乗り上げ、たまに大きな振動が直におしりと腰にくる。その衝撃は、馬車全体を揺らし、乗員の体を突き上げた。 ………………。